シニア・コミュニティ 2016年7・8月号・102号

【特集】介護保険制度改定に向けて波立つ福祉用具事業

≪巻頭インタビュー≫ 何を目的に福祉用具を使うのかマネジメント力が問われる福祉用具事業

国際医療福祉大学大学院教授 東畠弘子氏 「民間」が支えてきた福祉用具の高い利便性
 介護保険の中で福祉用具貸与事業は成功したビジネスモデルだと思っています。それは事業者が利益を出したということではなく、福祉用具とりわけ介護用ベッド、車いす、手すり等が1 割ないし2 割負担で全国どこでも利用できるようになったという意味での“成功”です。介護保険の導入による大きなメリットであると同時に、介護保険の中に福祉用具が位置付けられた意義もここにあると思います。
 私は福祉用具が介護保険のサービスの中では唯一「物」だというところにも“成功”の要因のひとつがあると思っています。訪問介護のように人が訪問する場合は、一事業所で行える人数もエリアも限定されますが、福祉用具は一般の流通と変わることなく、体制さえあればデリバリーが出来るのです。ビジネスの視点で見たとき・・・

≪日本福祉用具供給協会の記者会見から≫ 危機感を持って、福祉用具の有用性を訴える

拡がる「原則自己負担化」への危機感  次期の介護保険制度改定に向けて強い危機感を持つ、日本で唯一の福祉用具貸与事業者団体である一般社団法人日本福祉用具供給協会は、先月緊急記者会見を行った。背景は昨年閣議決定された『経済財政運営と改革の基本方針2015』にある。その中で「軽度者に対する生活援助サービス・福祉用具貸与等やその他の給付について、給付の見直しや地域支援事業への移行を含め検討を行う」と謳われており、それを受けて財務省は福祉用具の「原則自己負担化」を提言。厚生労働省もそれに対して「福祉用具貸与については、福祉用具貸与の対象種目の一部を購入対象とすることや、軽度者への貸与の見直しなどを検討」との見解を発表した。

≪インタビュー≫ 国民の視点で提言し、行動する福祉用具国民会議

福祉用具国民会議 事務局担当 鈴木寿郎氏 「貸しはがし」がきっかけに発足した『福祉用具国民会議』
 2006年の介護保険制度改正で軽度者の福祉用具利用を削減する、いわゆる「貸しはがし」が『福祉用具国民会議』設立のきっかけです。
 「貸しはがし」が事業者の業績に大きく影響することは予測できましたが、自分たちの“損失”だけを訴えるのではなく、広く国民の声を聞くことが必要ではないか、ということで急遽『緊急フォーラム』が開催され、国に対して「宣言書」も出しました。
 この問題を一過性で終わらせるのではなく、継続して“福祉用具の有効な活用”を訴えることを目的に発足したのが『福祉用具国民会議』です。福祉サービスや介護サービスの現場に携わるケアマネジャーや学識経験者、利用者、福祉用具供給事業者などが定期的に集って、供給システムや有効活用法等が話し合われていますが・・・

≪緊急レポート≫ 介護給付の現行維持を目指して福祉用具国民会議が「公開討論会」を開催

熱気あふれる日比谷野外音楽堂  6月23日、折しも参院議員選挙の最中に福祉用具国民会議主催による「公開討論会」が開催された。タイトルは「どうする!介護保険制度の大改革」。次期介護保険制度改定に向けた福祉用具供給事業者の“ 危機感”を強く国と国民にアピールする。
 開始時に降っていた雨も、会の中盤を迎えるころにはすっかり晴れ渡り、会場いっぱいに真夏を思わせる日差しが降り注ぐ。いままさに梅雨空のもとにある福祉用具事業も大きく視界が開けるのか。事業者のみならず利用者も関心を持って注視している。

≪新医療通信≫ 「スマートウエルネスシティ」が健康長寿のまちづくりを実現する

株式会社つくばウエルネスリサーチ 「e-wellness システム」で個別運動プログラムを提供
 1996 年に筑波大学の久野譜也研究室と茨城県大洋村(現・鉾田市)が共同で立ち上げた高齢者向け健康増進プロジェクト(大洋村プロジェクト)は、筋力トレーニングが高齢者の健康を維持増進させ、さらには医療費を抑制できる効果もあることを実証するなど、大きな成果をあげた。つくばウエルネスリサーチは、その研究成果を広く社会に還元するため、大学発ベンチャー企業として2002年7月に設立された。現在は筑波大学大学院教授の久野氏が代表取締役社長を務める。

[経営課題] 介護福祉道場あかい花発 masaの声
     居宅介護支援費の自己負担導入は、国民の福祉の低下をもたらす改悪だ

菊地雅洋 北海道介護福祉道場あかい花 代表  再来年の介護報酬改定議論では、現在全額保険給付されている居宅介護支援費に、利用者負担を導入することが既定路線化されつつある。もともと居宅介護支援費が全額保険給付されている理由は、「利用者個々の解決すべき課題、その心身の状況や置かれている環境等に応じて保健・医療・福祉にわたる指定居宅サービス等が、多様なサービス提供主体により総合的かつ効率的に提供されるよう、居宅介護支援を保険給付の対象として位置づけたものであり、その重要性に鑑みたものである」と国は説明していた。その原則を崩して一部自己負担を導入しようとする理由は、財源が足りないことによる給付抑制策といえるだろう。ただし国は、このことについて表向きには・・・

[経営課題] シリーズ・介護の扉 「標」のない道をさまよう家族の本音

進行する状態に家族は疲弊 「レビー小体型認知症は改善する」と知ったのは母が診断されて2年が経ってからだった。すでに家族会や専門医の存在を知っていたが、深く掘り下げなかったため「改善ルート」の発見が遅れた。2年の空白は主治医を信頼していたからだ。「この先生に任せていれば間違いない」。診断してくれたのは、若い精神科医。レビーについて深く研究を重ねている途上にあった医師の眼差しは常に患者を見つめていた。意識が清明な母に対して決して認知症という言葉を使わず、「自立神経の不調」と説明し、便秘や固縮の様子を診てくれた。薬過敏と言われるレビーの母に最小限の処方だったことも信頼を寄せる根拠となった。診察とは別に取材を申し込むと快諾を得られ、協力を仰いだこともある。彼が研修医時代を含めた看取り経験から「患者の尊厳」を第一に考えていることを知り、すべてを委ねようと考えた。

[経営課題] 弁護士直伝! 介護トラブル解決塾Vol.28おかげさまです、外岡です!

介護・福祉系法律事務所「おかげさま」代表 外岡潤  こんにちは、外岡です。利用者家族が代理人ないし身元引受人として介護サービスの利用契約を締結し、その後自己負担分の利用料を支払わないというトラブルが相次いでいます。次の様な、利用者が事故で怪我をした場合はどうでしょうか。

[経営課題] シリーズ・発掘 介護チャレンジャーを探せ!!vol.28

「介護」という仕事にある可能性 ただの紙芝居にしないから「人生紙芝居」――――
 静岡県の伊豆半島にある西伊豆町。今回の舞台は「みんなの家」(NPO 法人みんなの家・奥田俊夫代表)。1日の定員が10名の小規模なデイサービスだ。
 「みんなの家」は、1999年5月に民家を借りてスタートした。当初は自主事業でのデイサービスを提供し、宅老所と名乗っていた。そして今日まで変わることなく小規模だ。実はこの宅老所のアイディア豊富な実践は、何ともおおらかで愉快だ。
 まずは「人生紙芝居」からだ。ただの紙芝居ではない。利用者一人ひとりが主人公のオリジナルな作品だ。

[経営課題] シリーズ・小島美里と日本の介護を考える

生存権を守るのは誰の役割か ボランティアから始まった――――
 先号から『小島美里と日本の介護を考える』の連載が始まったが、今回は自己(活動)紹介を兼ねて、地域密着型NPOの役割と「介護保険外自費サービス」の拡大を中心に考えてみたい。
 代表をつとめる「暮らしネット・えん」は埼玉県新座市で活動する地域密着型介護系NPOで、別表の介護事業等を運営している。掲げた理念は「高齢になっても、障がいがあっても、地域で暮らし続けるために」。まるで地域包括ケアシステムの標語のようだが、こちらの方がずっと古い。
 スタートは1990 年ごろ、重度障がいのある二人の介助ボランティアグループからだ。

[経営課題] シリーズ・施設探訪 デイサービス一期の家 小竹町(東京都練馬区)

利用者が自宅に近い環境で過ごせる民家を改装した小規模デイサービス ケア・トラスト株式会社は「一期の家」のブランド名で、東京都に小規模デイサービス7 か所、埼玉県にサービス付き高齢者向け住宅(デイサービス併設)5 か所を運営する。都内の小規模デイサービスは戸建ての民家を改装したもので、大規模な施設にはない家庭的な雰囲気が特徴となっている。

その他コンテンツ

[コラム]連載第41回 聖隷福祉事業団に学べ
[コラム]《老人たちの居場所》もう止められない不良老人の大冒険
[World News]連載第14回 イギリスのホームドクター、認知症ケア、ホスピスの実情を探る
[World News]連載第21回オランダの新しい介護事情を探る
[日本橋介護経営塾報告2016介護イノベーションは日本橋から!]
                 地域に整った医療・看護、介護体制が終末期医療を支える

税込価格 1,100円(税抜価格1,000円)
体裁 A4変形判56ページ
発行日 2016年7月15日

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