シニア・コミュニティ 2018年7・8月号・114号

【特集】介護と外国人技能実習制度。その可能性と課題を考える

〚インタビュー〛 インドネシア財団法人 介護人材協会 創設者・特別顧問 原田昭治 氏
 ■ 送り出し機関の視点から見る技能実習制度―インドネシア

 ◎穏やかで我慢強い国民性が介護に適していると言われるインドネシア人 言葉の壁をどう乗り越えるか  2億6000万人の人口を抱えるイスラム教国家・インドネシア共和国(以下、インドネシア)。その穏やかで我慢強いとされる国民性は、介護人材の送り出し国として各国から熱い視線が注がれている。果たして日本の技能実習制度はインドネシアの若者の期待に応えることができるのか。
 インドネシアに根を下ろし、これまでにも技能実習生送り出しに豊富な実績を持つ原田昭治氏。日本人に対する信用と信頼は揺るぎないものの、日本語の壁を乗り越えて技能実習生と長期にわたってウイン・ウインの関係を築くことができるかに、制度成功のカギがあると言う。何よりも実習生を送り出す国の実情を知ることが重要と言えよう。

〚インタビュー〛 仁愛国際株式会社 日本担当副社長 太田道之 氏
 ■ 送出機関の視点から見る技能実習制度―ベトナム

 ◎信頼できる送出機関と組み 異文化交流を楽しむゆとりで戦力となる、ベトナム人技能実習生  ベトナムはいま、介護人材の送り出し国として世界から熱い視線が注がれている。日本への期待も大きいが、建前と本音が交錯する技能実習制度の分かりにくさが壁になっていないだろうか。日本の流儀を通すあまりハードルが高くなり、人材の“取り合い”に後れを取っていないだろうか。果たして技能実習制度そのものの存続は大丈夫なのか。
 送り出し機関として「教育」の重要性を求める太田道之氏は、何よりも介護事業者との関係を重要視する。その視線の先にあるのは、2国間にまたがる介護人材の還流か。

〚インタビュー〛 湘南介護人材協同組合 海外人材支援課 課長 住吉志郎 氏
 ■ 受け入れ機関・監理団体の視点から見る技能実習制度

 ◎技能実習生の夢を叶え チャンスを活かすための環境を整える受け入れ機関・監理団体の責任  昨年11月から受け入れが始まった介護分野の技能実習制度は、送り出し国と受け入れ企業を繋ぐ監理団体が適正に機能してこそ“血の通った”制度となるのではないだろうか。すでに25名を超える技能実習生の受け入れが予定されている湘南介護人材協同組合の住吉志郎氏は、実習生の受入れに責任を持ち、受け入れ企業の元で行われる実習を管理し、実習生の受入れ準備から帰国までの全ての工程をサポートすることが、監理団体の責任だと言う。
 いわば技能実習制度の要ともなるべき監理団体の役割を通して、制度そのものの行く末を考えてみたい。

〚インタビュー〛 社会福祉法人一石会 法人本部 本部長 福田広樹 氏
 ■ EPAに参加する社会福祉法人の視点から見る、介護と外国人

 ◎期待が大きいEPAやがては基幹的な業務を担う人材を育てる 今年、介護福祉士の試験においてEPA(経済連携協定)のベトナム人候補生が93.7%という驚異的な合格率をたたきだした。日本人の平均合格率が70%余りである。ベトナム人の優秀さを聞いてはいたが、これほどとは思わなかった。背景は何処にあるのか。昨年8月から5名のベトナム人が介護職として活躍する、社会福祉法人一石会の法人本部長・福田広樹氏は、ベトナム人の能力の高さとともに日本語能力N3 を義務付けるシステムこそ成功の秘訣だと言う。いずれはマネジメントを担ってほしいと期待する。

[緊急提言〛 UAゼンセン 日本介護クラフトユニオン 報告書に見る介護現場のハラスメント
 ■ 「ご利用者・ご家族からのハラスメントに関するアンケート」調査結果

 ◎4人のうち3人の介護職が利用者や家族からハラスメントを受けたことがある
 4人の介護職のうち3人が利用者や家族から何らかのハラスメントを受けているという驚くべきアンケート結果がUA ゼンセン日本介護クラフトユニオンから発表された。これまで、利用者目線で介護現場のネガティブな実態が語られることがあっても、介護職から発せられる声が届くことはきわめて少なかった。今回のアンケートにはまさに「悲鳴」に近い声が並んでいる。
 介護人材の不足が言われ、外国人の受け入れもハードルが下げられようとしている中で、今日も介護現場で汗を流している介護職に対するリスペクトが、忘れられていると思わざるを得ない。自分の親を、夫を、妻を支えてくれる介護職は、言うなれば「パートナー」であろう。上から目線で厳しい言葉を投げかけ、セクハラ行為に及ぶなど許されることではない。我が国の高齢社会を下支えするのは紛れもなく現場の介護職である。介護職が気持ちよく働ける環境を作る責任は利用者にも、家族にもあるのではないだろうか。

[介護福祉道場あかい花発 masaの声] 菊地雅洋 北海道介護福祉道場 あかい花 代表
 ■ 厚労省の書類半減は現場の意識とかい離

 ◎介護現場では的外れな削減案  厚生労働省は介護の現場に課しているペーパーワークの半減に向けて、省令を改正する方向で作業を進めている。その理由を「事務作業にかかる時間と労力を少なくし、介護職員の負担の軽減やモチベーションのアップ、人手不足の解消につなげる狙いがある」とし、削減案が示されている。そこで削減対象とされているのは、事業所の指定申請や施設の設立認可の際に出さなければならない書類の一部であり、具体的には以下に該当する項目がある場合はそれを削除するというものだ。

[小島美里と日本の介護を考える] 小島美里 認定NPO法人暮らしネット・えん 代表理事
 ■ 自立とは依存先を増やすこと

 ◎自立と共生はセット  「自立と共生」についてずっと考えている。簡単に結論が出るテーマではないが、ひとつ言えるのは「自立」と「共生」はセットだということだ。
 「自立は、依存先を増やすこと」と言い切ったのは脳性まひがある小児科医熊谷信一郎さん。「東日本大震災のとき、5階の研究室から逃げ遅れました。エレベーターが止まってしまったからです。そのとき、逃げるということを可能にする“依存先”が自分には少なかったことを知りました。エレベーターが止まっても、他の人は階段やはしごで逃げられます。5階から逃げるという行為に対して三つも依存先があります。ところが私にはエレベーターしかなかった」。要するに、障がいがない人々は依存していることさえ見えなくなるほど多くの依存先がある。依存先を増やせば自立できるとは、そういうことだ。
(東京都人権啓発センター『TOKYO人権第56号(平成24年11月27日発行)より)

[介護の扉] 藤ヶ谷明子 ジャーナリスト
 ■ 「見て見ぬふり」の“自覚”さえ欠落

 ◎当事者意識が軽かったハラスメントが、被害者の声に比例して大きな問題として注目されるようになった今、化石のような“相変わらず”の現場に遭遇した。 別途料金は年間1万円超え――――――
 「自治体間で2倍差も」。介護保険料について取り上げる番組をいくつか見た。テレビでは高額になった自治体に共通する点に「一人暮らし高齢者」の多さを挙げ、保険料抑制には介護予防活動が効果的と指摘。国の給付抑制の動きに触れる報道はなかった。
 翌日、通い慣れたコーヒーショップへ足を運ぶ。最近、昼間のカフェはシニア世代でいっぱいだ。オフィス街を離れた駅近くのチェーン店では8 割方が高齢者ということも珍しくない。常連顔のおばあちゃん、新聞に顔を埋める男性、1杯のアイスコーヒーで2時間は粘れるオバチャン達・・・。その光景はセルフ“デイ”サービスの趣である。

[弁護士直伝!介護トラブル解決塾Vol.39おかげさまです、外岡です] 外岡潤 弁護士 おかげさま 代表 
 ■ Q.利用者の代わりに契約解除を伝えたところ…

在宅のケアマネジャーは、関係者として事故トラブルに関わることは多いのですが、自分自身が責任を追及されることは滅多にありません。ところが最近、実際に弁護士から内容証明が送られてきたというケアマネジャーからの相談があり、ご参考までに紹介します。

[山谷クロニカル(6) 路上とドヤの暮らし#93; 甘利てる代 介護福祉ジャーナリスト
 ■ 「今日から野宿」と言うが…

 「訪問看護ステーションコスモス」(NPO 法人訪問看護ステーションコスモス・東京都台東区が路上で暮らす人達のために月に2回開催している、無料デイサービス「いこい」。
 数年前の師走、本格的な寒さを目前にしたこの日も、底冷えがじんわりと足元からあがってくるようだった。受付にいたスタッフの大森さんが、キッチンにやって来た。
 「今受付をしたあの男性、今日初めて山谷に来たんだって。会社をリストラされて、行くところがなくてここに来たみたい。まだ40歳前ですって。今日から野宿するって言っているんだけど、大丈夫かしら」
 もう一人のスタッフ杉本さんと看護師のK さんもキッチンに集まってきて、男性の今晩のねぐらのことを心配している。当の本人は風呂から上がってきて、湯上がりの血色のいい顔で、コーヒーを飲んでいる。そんな本人を囲んで緊急会議は続く。

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[海外情報・福祉情報] 
  介護施設が在宅の高齢者を支えるアメリカのPACEプログラムに地域包括ケアのヒントを見る

税込価格 1,100円(税抜価格1,000円)
体裁 A4変形判56ページ
発行日 2018年7月15日

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