シニア・コミュニティ 2019年1・2月号・117号

【特集】認知症基本法の行方を考える

〚巻頭インタビュー〛 厚生労働省老健局長 大島一博 氏
 ■ 介護保険制度にもう一度息を吹き込む

 ◎生活課題に対応する介護保険制度に  介護保険制度が始まってまもなく20年になろうとしていますが、当時言われていたのが「介護の社会化」でした。そして、ごく限られた人に配分する仕組みを、誰もが普通に使える仕組みに変えました。いわゆる「措置」から「契約」です。このふたつが大きな目標でしたが、概ね達成できたと言っていいのではないかと思います。それは、ある程度制度がうまく機能した結果ではないでしょうか。
 一方で、・・・・・

〚特集・インタビュー〛 公益社団法人全国老人保健施設協会 会長 東 憲太郎 氏
 ■ 認知症対策を強力に推進する基本法へ

 ◎成果を得た老健施設の認知症短期集中リハビリテーション  認知症への対応は、今や単なる一つの疾患対策の域を超えて、「認知症と向き合いどのような社会を構築していくべきか」という課題を我々に提示しています。団塊の世代が75歳以上となる2025年には、65歳以上の5人に一人が認知症となるほか、これと同じくらいの人数が認知症の予備群である軽度認知障害となり、その3分の1以上が数年以内に認知症に移行すると見込まれます。認知症はまさに超高齢社会の新たな国民病であり、生涯罹患率は約55%、孫から見て両親と4人の祖父母の誰か一人が認知症になる確率は99%を超えることとなります。老人保健施設や特別養護老人ホームでは、入所している方の90%以上が認知症を合併しているという現実があります。
 そのような中で、・・・・・

〚特集・インタビュー〛 公益社団法人認知症の人と家族の会 東京都支部代表 大野教子 氏
 ■ 本人と家族は車の両輪 基本法には両方をしっかり支える 具体的な施策を盛り込んでほしい

日本には認知症の人を支える家族のことに配慮した法律は何処にもない。レスパイトケアという名のもとに、家族の“休息”には配慮していますよ、ということのようだ。近年、認知症の本人が声をあげることが多くなったけれど、家族の存在が忘れられようとしていると感じるのは、気のせいだろうか。俄かに騒がしくなった認知症基本法を巡る話しだが、家族の人権に配慮した施策は明記されるのか。家族の立場から考えてみたい。

〚特集・インタビュー〛 ジャーナリスト 浅川澄一 氏
 ■ 認知症になっても安心して生活できる社会とは認知症基本法が持つべき視点はここにある

 ◎認知症基本法を「施策」であり「対策」と捉えることの問題  認知症の基本法成立に向けて動きが慌ただしくなっていますが、先行している形の公明党による骨子案がどのような経緯で出され、どこに問題があるのかについてまず触れておきたいと思います。3 年前に新オレンジプランが発表されましたが、正式名称を『認知症施策推進総合戦略』と言います。公明党案も実は『認知症施策推進基本法』です。つまり、どちらも「施策推進」なんです。認知症にどう取り組んで、どういった対策を打ち出すか。あくまで対策に対する提案です。
 「対策」とはどういったことを指す言葉か。・・・・・

〚特集・インタビュー〛 NPO法人町田市つながりの開 理事長 前田隆行 氏
 ■ 「仕事」を通して生きがいを育み 当事者を主語にした認知症基本法をめざす

 ◎仕事を通して社会と繋がる利用者  ここのデイサービスは他とは少し違っている。利用者(以下、メンバー)は圧倒的に男性が多いのだ。みなさん、認知症の症状を持っている。クリスマスが近いこともあって、竹を使ったツリーを作っていた。スタッフが手作りした飾りをいかにも不器用な手つきでツリーに付け、部屋のあちこちにぶら下げる。
 赤いジャンパーを着て、長靴を履いたグループがちょうど出かけるところだった。カーディーラーで洗車をするためだ。ボランティアではない。仕事として請け負っている。前田隆行理事長は社会福祉法人に勤務していた時から、利用者の生きがいを「仕事」に求めていた。

〚特集〛 本人の願い 家族の思いを受け止めるために まず、話しを聞くことから始めたい
 ■ 公益社団法人認知症の人と家族の会東京都支部「認知症の人と家族の思い」に関する調査から

 認知症の人たちの声は、ワーキングループの発足などによってようやく社会に届き始めている。しかし、発せられるメッセージの多くは若年性認知症の人たちからのものであり、大多数を占める高齢者の声は必ずしも私たちに届いてはいないのではないか。自分自身はどのような生活を望むのか、家族や介護職に望むのは何か。認知症に関する基本法を巡る議論が高まりを見せようとしている中で、「本人の声を聞く」ことの重要性がさらに増してくるに違いない。
 認知症の人と家族の会東京都支部では数年に1度、本人と家族、専門職を対象に意識調査を行っている。今回、平成29年3月に発表された報告書の内容を抜粋して紹介したい。本人と家族の“思い”をどう捉え、それをどの様に法律に生かすか。私たち一人ひとりが考えるヒントとしたい。

[介護福祉道場あかい花発 masaの声] 菊地雅洋 北海道介護福祉道場 あかい花 代表
 ■ 毎日営業する通所サービスは時代遅れ

 ◎時代の変化について行けるか通所介護事業  介護保険制度によって、日本の高齢者介護サービスは劇的に変化した。その制度自体も“走りながら考える”としてスタートしたため、この18年間でマイナーチェンジ・メジャーチェンジを繰り返し、社会情勢の変化と相まって介護事業者の置かれる状況も大きく変わってきた。それについていける事業者だけが生き残っていけるが、介護保険制度開始当初の事業経営ノウハウにこだわっている事業者は先細りの一途をたどり、事業廃止に追い込まれざるを得ない。

[介護の扉] 藤ヶ谷明子 ジャーナリスト
 ■ 「QOD」を低下させる“不機嫌”

 ■老人ホームで介護職不在の異常事態  住宅型老人ホームでひと月のうちに6人が亡くなったという報道に驚いた。介護職員が全員退職し、日中は看護師、夜間は高齢の男性施設長が介護を担っていたらしい。代表理事の医師は会見で「我々は(行き場のない高齢者に)手を差し伸べた」、「感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはない」と言い切った。また、「食事や介護の面で適切ではなかったかもしれないが、医療面は影響なかったと思う」と語っていた。終始、不機嫌で「ふてぶてしい」と見える物言いに、傲慢や不遜さを覚えた。

[弁護士直伝!介護トラブル解決塾Vol.42おかげさまです、外岡です] 外岡潤 弁護士 おかげさま 代表 
 ■ Q.誤嚥事故対策、何をどこまでやれば

 世間は外国人受け入れの議論で喧しいですが、もしあなたの施設に日本語が不自由な外国人ワーカーが入ってきたら、リスクマネジメントの教育・訓練は万全でしょうか。今回は現場の二大事故(転倒・誤嚥)のうち、誤嚥事故対策を取り上げます。

[小島美里のポートランド研修リポート] 小島美里 認定NPO法人暮らしネット・えん 代表理事
 ■ アメリカを通して見えてくる日本の現状

11月末から1週間、アメリカ合衆国西海岸のオレゴン州ポートランドに愛敬福祉支援財団主催の高齢者福祉研修で訪れた。ポートランドは『環境にやさしい、多様性を重んじる都市』として合衆国の中で住みたい都市トップに上げられ、リベラルな気風を持っていると説明を受けたが、確かに路面電車の路線が交差し、自転車が行き交う、暮らしやすそうな街だと感じた。地産地消を推進して、おいしい食事をいただけたのも、うれしい驚きだった。たまたま滞在中にハローウィンの日が来て、訪問した施設で責任者が人魚(太めの)の仮装で現れて、この国での祝い方を楽しませていただくことができた。たいへん充実した中身の濃いものだったが、1週間足らずの研修で理解が行き届かないところがたくさんあるので、いくつか印象に残ったことを記しておきたい。

[山谷クロニカル(9)] 甘利てる代 介護福祉ジャーナリスト
 ■ 再出発を後押しするスタッフ

 ◎ここにもヒエラルキーがある  10月だというのにやけに蒸し暑い日だった。「訪問看護ステーションコスモス」(東京都台東区・NPO 法人訪問看護ステーションコスモス)が路上で暮らす人達のために開いている無料のデイサービス「いこい」の開始時間が迫っていた。
 昼12時にオープン。「ガラガラ」とシャッターが上がると待ちわびたおじさんたちがデイルームに入ってくる。席についたおじさんにはコーヒーを提供する。いこいの椅子席が埋まるまで慌ただしい。受付で衣類の提供を受けるおじさんたちはそれなりに真剣だ。突然、怒声が響いた。

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税込価格 1,100円(税抜価格1,000円)
体裁 A4変形判56ページ
発行日 2019年1月15日

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